『知れば知るほど不思議な世界』
|
かつらをつけてるよ、って面と向かって教えてくれる人はまれです。
身体の困ってる部分を補助する便利な製品はたくさんあって、私たちはずいぶん助かっています。
めがねも入れ歯も、大きく言えばパンツだって化粧品だって。堂々と市民権を得て、当たり前に愛用していますよね。だのに、かつらにはなぜだか理解がとぼしい。
情報や意見が少ないから、よりよい物を選ぶ基準も、よりよいサービスも広がらない気がします。
コンタクトレンズのように、誰もが気楽に愛用できればいいのに。
つけてることを好奇の目で見ない世の中になればいいのに。
そんな中で、知人のYさんが貴重な情報をくれました。
Yさんが見せてくれたのは、頭頂部にのせるタイプの部分かつら。
手のひらほどのそれには、パチンととめるクリップがついています。毛質はさらさら、ピカピカ。化繊。軽い。
よく出来ています。はじめて触りました。
でも、値段を聞いてびっくり。なんと70万円!!
CMでおなじみの最大手で、オーダーメイドするとそれくらいかかるとのこと。
もっと驚いたのは、そんなにふんぱつして手に入れたのに、実際に使った期間は3ヶ月もないと言います。
「どうしてですか?もったいない」と聞くと
「毎日クリップでとめてると、残ってる髪に負担がかかっちゃってね。それに色が自毛と違ってきちゃって」と。
確かにそのさらさらウィッグは、ちょっと茶色すぎるかも。
「小森さんが安くていいのを作ってくれたら、いつでも買うよ。それまで“薄毛族”で頑張るから」
と笑うYさん。
Yさん、すみません。まだ女性の医療用でいっぱいいっぱいで、男性用まで手がまわらないのです。
もっと勉強して、もっと仲間が増えたら、いつかきっと男性用も考えますね。
Yさんが貸してくれたかつらの本を読みながら、奥の深ーいこの世界を知り始めてる夜です。
|
|
『中国 広し』
|
ついに来てしまった。中国。
どんな国で、どんな方々が生産して下さり、どんな方々の貴重な髪がウィッグになっているのか。
知りたくて動きだしている。
どきどきしながら降りたった浦東国際空港は、人々の熱気であふれていた。
税関を通るのに小一時間。
人が多い。空がはてしない。売店も銀行もタクシーも、あいそ笑いがないから、ちと怖かった。
第一印象はまじめ。エネルギッシュ。路地裏のお年寄りまでよく動いてる。
二月に行ったタイでは、時間の流れをゆるゆる楽しんでるお年寄りが印象深かったので、夜間に道ばたで太極拳をやってるおばあちゃんたちには心底びっくりした。私も教えてほしかった。
四年後の上海万博のために、町全体を取り壊している地域を通った。
大きなショベルカー、屋根や壁の残がい。スクラップ&ビルドの巨大なエネルギーを感じる。
ホテルのラウンジのコーヒーは、日本円になおすと1000円ちょっとした。高いなぁ。
場所によるのだろうけれど、物価は全体的に安くはない。
女の子の化粧品や衣類は日本と同じか、ややお手ごろなくらい。
メインストリートのファッションビルでは、美容院のカット&パーマが3000円〜8000円前後。
でもその分、おしゃれ感度も高いので、ウィッグのスタイルの豊富さがうれしい。

思っていたよりずっと魅かれる国。
人々のひたむきさ。日本じゃ、今やカッコ悪いと一掃されてしまう意識が、当たり前に存在してるところが、私には心地よかった。
きっとどんな要求もプロとして応えてくれそうだ。
その対価もきっちり要求してくるところが、やっぱりプロなんだなあと、あとになってわかり苦笑。
印象的な話を関係者から聞く。
「かつらには、パーマやヘアカラーを一度でもしてしまった髪は使えないのです。なぜなら髪の強度が不足するから。中国の女性がどんどんおしゃれになるにつれて、かつらに使える無垢な人毛もどんどん貴重になっています」
「長い髪は特に品薄なので、価格も高いのです」
思わず納得。大切に大切に伸ばしていた髪は、どこの国の女性でもいとおしいもの・・・
この気持ちを忘れずに、大切に大切に扱っていかなくちゃ。
|
|
『いろいろあるぞ』
|
ひとことで「かつら」と言ってしまえば、三秒もかからないけれど、種類は膨大。
ひとりひとり髪質や長さ、スタイルも異なるので、合わせていこうと思うと際限が本当にない。
値段に関しても、はてしない。
あれもこれもと、すべてを満たしているものを開発したいけれど、最初から欲張っていてはパンクしてしまうだろう。
一番大切なことは、必要としている方の声だ。
以前、私が入院中に同じ病室の方にうかがったことを思い出す。
「なるだけ自然にみえるもの」
「品質がよいものがいいよね」
「安く手にいれたい」
「多少のずれはよしとするから、サロンに行って計るのだけはいや」
「軽いもの」
うーん。
どれからクリアしていこうか。
いくつか購入したものや、借りたもの、メーカーのサンプル品たちを手にして、「かつら」ってなんだか「人」
そのものに触れているような気がしてきた。
さあ、困った。どこから優先順位をつけていいんだろう・・・
「人」だと思うとよけい、すべてが大切に感じられてくる。
|
|
『父に相談したことを思い出す』
|
5月。
太陽がまぶしいです。
我が家の小さな庭の鉢植え桜に、なんとさくらんぼがみっつ実りました。
なんて可愛いんでしょう。なんだか元気がでてきます。
このところアンジェリックの活動が進むにつれ、父に言われたことばが時々心にくっきりあらわれてきます。
明け方まで論文を書いていた父のそばで、私も宿題をしながら夜更かしするのが大好きでした。
あの日の友人のお母さんのかつらの話をしたこともあります。
「髪の毛の抜けないお薬を作れないの?」
「なんでがんができるの?」
幼稚な質問にもひとつずつ答えてくれた父。
でも「患者さんが外を歩けるかつらは病院で作ってくれないの?」という問いには
「医者にはできないこともあるんだよ」といいました。
「そこまでやっていたら、病気の治療がおろそかになるだろ」とも。
『患者さんのために』が口ぐせのような父から、そんなことばが出てそのときは少し意外でした。
でも、今考えるともっともなことです。
できることと、できないこと。
明確にしてから、そこに熱意をそそぐことが一番効率よく力を発揮できる、と伝えたかったのかな。
父の好きだったなすの味噌汁をつくりながら、そんなことを考えていました。
|
|
『医療用かつらを知るきっかけ』
|
協力してくださる方々の、お力を得てやっと動きはじめました。
思えば長い長い、願いを宿した年月でした。
何から手をつけたらいいのか。
私に本当にできるのか。
必要としてくださる人はまだいるのか。
考えて、進んで。また悩んで。
少しずつ歩んでいたアンジェリックの、開発・製造が決まった今日は、なんだかやっと先が描けた気がします。
うれしいことに打ち合わせ後、新宿を通った時に虹があらわれました。すっと立ち上がったようなりりしい虹。エールをもらった気がしました。
私が医療の現場でも“かつらが必要”だということを知ったのは、今から20年も前のことです。
友人のお母さんを病院にお見舞いに行った時のこと。その人は乳がんの治療中でした。
病室に入ると「まなみちゃーん、ちょっと見てよ。この頭。くすりで髪が抜けちゃうからってパパにデパートで買ってきてもらったんだけど、お人形さんみたいでしょう?かつらがピカピカしちゃって。ねぇ。」
と苦笑いしながら言いました。
確かに、キレイすぎるくらいキレイなかつらは、リカちゃん人形のようにツヤツヤです。
今思うとあれは化繊のファッションウィッグだったのでしょう。
明るくて素敵な彼女の頭だけが、ぽっこり病室から浮き上がってみえて、なんとも残念でした。
「パパじゃなくて、まなみちゃんに選んでもらえばよかったかな」
今でもあの時の、無理して笑ってるような、瞳は忘れられません。
今日はいわば初めの一歩。
まだまだこれから、やらなければならないことは山積みです。
アンジェリックはお医者さんではないので、髪のトラブルそのものを治療してさしあげることはできません。
でも、よりよい毎日のために、より求められているすてきなウィッグを開発することはできます。
少しでもお悩みの方のお手伝いができるようになりたい、と思っています
|